玄能石(Glendonite)


東京都あきる野市五日市町舘谷
標本幅 68mm

玄能石とは、方解石を主成分とした謎の多い石である。
「玄能石」の名は、その形が昔のハンマーに見えることから名づけられたものである。一般には「グレンドン石」という名前で知られている。
玄能石の成因に関しては今でも謎の部分が多く、主な説として「鉱物説」と「化石説」がある。

「鉱物説」は、玄能石の元となった石が、方解石に置換されたというもので、いわゆる「仮晶」の一種である。
元の鉱物もさまざまな者が候補に挙がり、グラウベル石(Glauberite)やゲイリュサック石(Gaylussite)が候補に挙がっていたが、現在では含水炭酸カルシウムの鉱物「イカ石(Ikaite)」(CaCO3・ 6H2O)が正体であるということで議論が落ち着いている。イカ石は0〜5℃という低温の海水中や炭酸泉中に産出する犬牙状結晶の鉱物である。8℃で脱水分解し、ザラメ状の方解石へと変化する。玄能石の少なくとも一部はこの説が確実である。しかし、イカ石は単斜晶系であるが、他の晶系を示す玄能石があり、これは説明が付かない。また、一部の玄能石は、マグネシウムが多く検出されており、成分が方解石ではなく菱苦土石(Magnesite)であることがある。含水炭酸マグネシウム鉱物ではランスフォード石(Lansfordite)(MgCO3・ 6H2O)があるが、これは結晶水を完全に失うのが110℃と高温であるため、これも謎である。

「化石説」は、鉱物説では説明の付かないような形状をしている玄能石への説である。日本産の玄能石は、新第三紀以降の堆積岩中に産出するが、形状が鉱物とは思えぬ、丸まった結晶面を持って産出する。そのほかも、結晶的な形を持って産出する以外に、鉱物らしい特徴があまり見つからないのである。近くで生物化石や生痕化石なども産出する産地もあることから、玄能石も生物の化石であると考えられるのである。ただ、このような形の生物が存在しないことから、今のところ反論以上の効力を持った説ではないことは確かである。

写真の標本は小庄互層(砂岩と泥岩)の泥岩中に産するもので、かつては櫻井氏が述べた「幻の産地」のものである。「幻」である理由は、数が少ないことと、母岩と色がよく似ているため、区別がしにくいからであろう。方解石を主成分とし、石英や黄鉄鉱を微量に含む。弓形に湾曲しているので、実際の長さはもう少し長い。一部は折れ曲がったせいか、割れ目があり、そこを白い方解石が接着するように付着している。同じ泥岩中ではカニや木の葉の生物化石や生痕化石があり、黄鉄鉱で置換されているものもある。
今のところ鉱物なのか化石なのか判断が付かないため、「その他」の欄に記載することにした。

ちなみにイカ石は、1962年にグリーンランドのIkkaフィヨルドで、石灰岩の下部に付着した物質として発見された。温度が上がるとすぐ分解するため、魔法瓶で保存しコペンハーゲンまで空輸、素早く分析することで鉱物種として同定された。日本では北海道足寄町のシオワッカで、低温の炭酸泉から冬限定で産出する。方解石、ファーター石(Vaterite)のほか、夏にはモノヒドロカルサイト(Monohydrocalcite)、冬にはイカ石が産出し、すぐさま方解石へと変化する。この四種類が産出する産地は世界唯一であり、また陸上でイカ石が産出する例はここが二番目である。

2009年6月28日採集。

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